階巧、二十六歳。階級、巡査長。大卒で警視庁に入庁し、現在勤務四年目である。
得意なのは運動全般で、所謂スポーツ少年だった自負がある。小学校はサッカー、中学校は剣道、高校はハンドボール、大学は空手と、とにかく身体を動かして生きてきた。
何をやらせてもだいたいできるし、レギュラーに選ばれる。ただし一番にはなれない器用貧乏タイプで、本番に弱いのも玉に瑕。試合で活躍できないので、人気者にはなれないし、女子にはモテない青春時代だった。
そんな巧には夢があった。
『警察官、その中でも刑事になりたい』というものだ。
きっかけは単純にも小学生の頃見た刑事ドラマだ。大人気のシリーズ物で、ドラマも劇場版も見た。
あんな格好いい刑事になりたい。弱きを助け悪を挫く、正義の執行者になりたい。
運動神経と体力には自信がある。筆記試験さえクリアすれば、きっと受かるだろうと思って挑んだ警視庁採用試験。巧は見事合格した。
警察学校を出て池袋(いけぶくろ)署、機動隊を経て、現在鳥居坂署に配属となった。巡査部長試験にはなかなか受からないが、熱心なアピールの甲斐あって刑事講習に行かせてもらえることになったのは昨年のことだ。この講習で成績が良ければ、署でも私服の刑事として使ってもらえる。さらにキャリアを重ね、ゆくゆくは本庁の刑事になれたらいい。憧れの捜査一課だって夢じゃない。
しかし、講習後の異動で巧が配属されたのは悪名高き犯罪抑止係だった。