誉はすべて無視して遺体に集中している。見事なくらいのスルースキル。巧もそろりと遺体を見やった。
間違いない。首をかき切られ絶命しているのは、香西永太だった。昨夜と同じ私服姿で、茶色く脱色された髪は朝露と血で湿っていた。表情は苦悶に歪んでいるかと思えばそうでもない。遠くを眺めるような顔をしている。
警察官になって四年目だ。学校でも学んだし、地域課時代に事故遺体を目にしたことはある。しかし、他殺体を間近で見るのは初めてで、巧は自身の視界がくらくらとまわるような感覚に陥った。
そこにあるのは何者かの悪意にさらされた、生きていた人。昨日まで自分と同じように生活していた人間なのだ。
巧の当惑など気にすることもなく、誉が非常に冷静に呟く。

「失血死。首が致命傷か」
「御堂、引っ込んでろ!」

刑事に怒鳴られながらも全身を点検していく。

「背面にも傷が?」

刑事課の刑事たちが答えるはずもない。むしろ、そろそろ力づくで排除されるかもしれない。その時は、上司のため持ち前の体力で抗うべきだろうか。それとも、出世に響きそうなことはやめておくべきだろうか。