「振り込め詐欺、Crackzとの関係。本人から色々聞けそうですね。場合によっては、緊急逮捕も必要かもしれませんよ」
「なんでもかんでもゲンタイ、キンタイするなと地域課で習わなかったのか? 今逮捕しても証拠不十分で不起訴だ、馬鹿め」

地域時代に何度も言われたことを誉にまで言われ、巧はぐっと詰まった。
現行犯逮捕は目の前で行われた犯罪の犯人を逮捕するため、特別な捜査がなく、令状がなくてもでき、一般人でも可能だ。緊急逮捕は犯罪が重大であり、令状請求の暇がない場合行われる。
通常逮捕と合わせて、どの逮捕でも七十二時間以内に送致し検察で起訴できるか決める。それまでに証拠がそろわなければ、検事は起訴できないと判断し、犯人は不起訴で釈放だ。現時点で緊急逮捕に踏み切れば、確かに検察は起訴してくれない可能性もある。みすみす犯人を逃すことにもなりかねない。

「まずは父親のマンションについて話を聞く体で揺さぶる。まずいと思って、商売を畳む気になれば、ひとまずこれ以上の被害は防げるし、証拠集めから逮捕まで時間も取れるだろう」
「証拠隠滅を図られませんか?」
「防犯カメラやスマホ、PCには本人にも消せない証拠がたくさん残っている。相手は子どもだ。いきなり海外に逃亡ということもないだろう」

まだまだ逮捕起訴まではかかりそうだが、一歩前進した。嬉しいような心地で巧は深呼吸をした。

「明日ですね」
「ああ、明日の午後、会いに行ってみよう」

誉が頷いた。その顔は少々の疲れは見えたものの、やる気がみなぎって見えた。