「……ここまで、全部、御堂さんの読み通りですよ」
「運がよかったな。Crackzで当たりが引けて」

おそらく誉は、Crackzと繋がりがなければ、昇鯉会との繋がりを暴きに出る算段もつけていただろう。麻布界隈でなく他署管内まで、こういった裏社会の組織にあたりを付けていたかもしれない。御堂誉なら有り得る。

「御堂さんの地道な捜査の賜物ですね」
「捜査なんて、すべて地道で地味で面白くない。ドラマじゃないんだ」

誉はぶっきらぼうに答える。
ここまで自分はなにもしていないのではないかと不安になる巧だが、誉の姿勢や仕事スタンスは確かに勉強になるところばかりだ。二十八歳の若さで警部補、そして元捜査一課は伊達じゃない。

その後、やはりピンヒールでろくに歩けない誉をタクシーに詰め込み、鳥居坂署に戻った。トイレで、派手な格好からいつもの地味スーツに着替えた誉がオフィスに入ってきた。驚いたことに、その顔はびしょびしょに濡れている。

「顔、洗ったんですか? タオル持っていってないでしょう」

慌てて巧は自分の鞄から未使用のハンドタオルを取り出した。受け取って真顔で誉が言う。

「階、化粧が石鹸で落ちない」
「落ちませんね、そりゃ!」

どうやら、派手なメイクを石鹸で落とそうとごしごし擦ったらしい。
夕食の買い出しも兼ね、巧は署から飛び出し、一番近いコンビニでメイク落としシートとおにぎりを買って戻ってきた。以前もこんなことがあった気がする。