ハイテーブルにようやく腕が載るくらいの身長である誉に顔を近づけるのだから、巧はかなり屈み込んでいる。それがふたりを親密そうに見せる。おそらく周囲からはカップルに見えているだろうから、カモフラージュとしてはなんの問題もない。
しかし、巧はまたしても勝手にドキドキし始めていた。近づいた誉からシャンプーのような花の香りがする。普段は髪を下ろしていないからわからないけれど、今は綺麗な黒髪が華やかに巻かれて彼女の顔の横に垂れているのだ。
そして、彼女の頬はチークで桃色が差し、唇には紅いルージュが艶々と光っている。普段から割と長いと思っていた睫毛が今日は倍盛りくらいになり、目元を女性的に見せている。メガネをはずせば、美麗な顔立ちがもっと目立つだろう。
一瞬、上司といることを忘れそうになる。いつもの誉と現在の誉が結びつかず、脳がバグを起こす。可愛い女の子と遊びにきているような感覚だ。

(何を考えてるんだ。今は仕事中! これは御堂さん、これは御堂さん……)

精一杯仕事に頭を戻そうと巧は口を開く。

「香西永太、爽やかイケメン風でしたけど、偉そうな雰囲気が滲んでましたよね。甘やかされた坊ちゃんって感じ」
「間違いなく坊ちゃんだ。ドラ息子とも言うだろう。香西永太なら今回の特殊詐欺の計画実行ができるだろうな。資金調達、人材確保、拠点の確保。高校生の口コミや、SNSで人集めをして、メンバーを十代に絞ったのだろう」

誉は冷静に分析する。