「井草巡査部長、説諭は私の仕事だからもう結構。古嶋と出かけてくれ」

凛とした声で言う御堂誉に巧はそろりと視線を向ける。
御堂誉警部補。年齢は巧のふたつ上で二十八歳。ちなみに階級もふたつ上。
チャコールグレーのパンツスーツ。同じ色のパンプス。
身長は女性警察官の採用基準である百五十四センチとのことだが、もう少し低そうに見える。
化粧っけはほぼなく、乱視があるそうで仕事の時は細い銀縁のメガネ。髪型は時代ドラマに出てくるメイドを彷彿とさせる、ひっつめお団子スタイルだ。
この地味極まりない女性警部補は鳥居坂署でも有名人で、配属される前から名前と凄まじい経歴は聞いていた。
しかし、巧は自分がその直属の部下になるとは思いも寄らなかったのだ。

「はーい。じゃ、御堂係長、あとよろです~。古嶋、行くよ~」

井草は年下上司に声をかけ立ち上がり、背広を肩に引っ掛けた。のっそりと古嶋が後に続く。立ち上がっても背中は丸いままだ。

「階、準備をしろ。私たちも出るぞ」
「はい!」

誉に急かされ、巧は慌てて、自分のデスクに仕事鞄を置いた。