大学一年の古嶋の妹・咲実(さくみ)はあっという間にやってきた。自宅のある浅草から服とメイク道具を持って駆けつけてくれたのだ。

「ちわーす、いつも兄がお世話になってまぁーす」

元気に入ってきた彼女はとても古嶋と年子の妹には見えない陽キャであった。ヒップホップ系のキャップに肩が丸出しのサマーニット、ミニスカートをはいている。目だけがかろうじて古嶋に似ているが、あとはまったく別な生き物にしか見えない。

「よく来てくれた。手数をかける」
「きゃは、兄貴の上司サン、サムライ言語だし。兄貴が面倒見てもらってるんでぇ、当然のことっすよぉ」
「兄思いで、感心だ」

若干距離を取ってしまう巧と井草を他所に、誉は堂々たるもので、彼女から借りた服にトイレで着替え、オフィスに姿を現した。
白のノースリーブニットにハイウェストのスキニージーンズにピンヒールパンプスという出で立ちである。普段の御堂誉からはかけ離れたものだ。

「御堂さんてぇ、お化粧あんまりしない人スか? お肌めっちゃキレー。ファンデめっちゃのるー」
「ありがとう。メガネはかけたいんだが」
「本当は外したほうがいいですよぅ」

朔実の手により完璧にメイクをほどこされ、髪の毛もヘアアイロンでくるくるに巻かれ、御堂誉のクラブスタイルは完成した。
巧は口にこそ出さなかったが、心の中で思った。やっぱり、御堂誉は結構可愛い。こうして盛れば人並み、いや人並み以上に美人だ。可能なら写真を取って残しておきたい。

(普段からちゃんと綺麗にしてればいいのに)

もし、今犯罪抑止係に誰かが尋ねてきても御堂誉がここにいるとは思わないだろう。そのくらい変貌を遂げた誉は、咲実に礼を言い立ち上がった。

「よし、階。行くぞ」
「は、はい」

私服のジャケットにパンツスタイルになった巧はおずおずと返事をした。見るからにギャル系のお姉さんが、いつもの上司の口調で指示をしてくるのでギャップがすごい。

「俺たちは上がらせてもらいまあーす」

井草が言い、古嶋も頷いた。古嶋の妹はこれから別のクラブに遊びに行くと、荷物を兄に押し付け帰って行った。