「ああ、私と階で行ってくる」

やはり同行は自分だったかと、唇を噛みしめる巧だ。行かなくていいですよねと言える井草が内心羨ましくはある。

「御堂係長、まさかその格好で行かないでしょ?」

井草が片方の口の端を上げ苦笑いするので、誉は眉をしかめた。

「階にも言われた。私服がいいと」

そう言って、誉は自身のデスクから紙袋を持ってきた。私服を用意してあるらしい。巧はハラハラしつつ見守る。この前言った意味が通じているだろうか。
誉が堂々とデスクに広げたのは、白いTシャツとジーンズだった。なんのしゃれっ気もないシンプルそのものの私服である。残念ながら巧の言葉はうまく通じていなかったようだ。


「あはは。ジーンズにTシャツとかでも行けなくはないけど、ばっちり化粧して髪巻いてハイヒールのパンプスでも履かないと浮くよ~。係長がそれ着てったら、迷い込んだ中学生に見えるからね~。補導されちゃうよ~」

井草の無神経に今日ばかりは感謝だ。巧が言えないことをずばっと言ってくれたのだから。
誉は心外だと言わんばかりの表情だが、珍しく黙っている。反論できないのだろう。

「……あ、あの」

デスクの向こうからか細い声があがった。三人で見やると、そこには古嶋がふるふると片手を挙げている。

「えっと、その……うちの……妹が……貸せるかもしれない……です、服」
「え?」
「おい、古嶋、係長はSサイズでも余るかもしれない体型だぞ。おまえの妹は?」

さらりと失礼なことを追加して、井草が尋ねると、古嶋は手を下ろし小さな声で答える。

「妹もあまり身長が高くないので……。大学生で……クラブなども行っているようですし……」
「古嶋、今すぐ妹御をここに呼んでもらえるか?」

御堂誉の判断はいつも早い。恥や外聞ではなく、必要であればなんでもやる彼女は、どうやら今宵ギャルに化けることを決めたらしい。