「よし、わかった」

しばらく黙っていた誉が口を開いた。

「次の視察までに、私服を用意しよう」
「大丈夫ですか? その、どんなものを着たらいいかとか」
「ここにいる女子の服を参考にすればいいのだろう。露出が多いのは年齢的に控えた方がいいだろうな」

大真面目に返す上司に、巧の不安は募る。彼女の部屋にぶん投げてあった服はスーツ以外は寝間着であろうジャージしかなかった。

「あの、本当に大丈夫ですか? 俺、地域課の女の子に服借りてきましょうか?」
「階には服を貸してくれるような親しい女性がいるのか?」

馬鹿にしたような口調と視線。反論できない巧はがっくりと肩を落とした。

「いませんね。いきなり服貸してって言ったら変態扱いですね」

ともかく、服のことは追々考えることにして、その日は確たる収穫もないままクラブを後にするふたりだった。

** *

梅雨の晴れ間である。
十五時半、有栖山記念公園近くの路上、学校の校門を出たばかりの少年は、大きな目をさらに大きく見開いた。

「こんにちは、きみはこの学校でしたね」

親しげに話しかける御堂誉に、幸井雪緒はにっこりと微笑んだ。