「いいえ、ここは友人の家で」

巧がどきっとする隣で、誉は平静に相槌を打っている。

「へえ、そうなんですか」
「なんか、みんなでゲームやって実況動画作るからって呼びだされたんですけど」
「彼の家で?」
「はい。でも、ドア開けたら知らないヤツばっかりだったんで、帰ってきちゃいました。友達本人はいないし」

ちょっと困ったように笑って少年は言う。

「きみのお友達の家じゃないんですか?」
「友達のお父さんが借りてるみたいです。今はあいつが遊び場にしてます」

遊び場に……。詐欺グループの拠点としてはかなり有力な情報だ。

「きみを呼びつけて本人がいないなんてひどいですね。何度かこういうことが?」
「ちょっと前もありました。部屋に入ったら知らないヤツばっかりで、ゲームするって聞いてたのに、全然始まらないし。その時も感じ悪かったからすぐに帰りました」

明るく話す彼は、気弱そうだが利発な受け答えをする。

「そうなんですね。念のため、きみの名前を伺ってもいいですか?」

その名前はリストに記してある。誉は敢えて聞いている。

「はい。幸井(さいわい)雪緒(ゆきお)です。帝旺学院高校一年です」

雪緒という少年は屈託なく笑った。


少年と別れ、巧と誉は駅に向かう。川崎に住むマンションオーナーの家に向かうためだ。

「オーナーに会いに行く前にあらかたわかってしまいましたね。借主の手がかり、少年たちがなんと言って集められているか。あの雪緒くんって子にもう少し聞いてみればよかったかな。あんまり急にいろいろ聞いたら怪しまれるかな」

ホームに立つ誉は無言だ。

「彼は今のところ深く関わっていなさそうですし、うまく情報を聞き出せるかもしれませんよ」
「……そうだな」

誉の相槌に続いて、警笛を鳴り響かせ、電車が滑り込んできた。