ふたりはもう一度マンション前に戻った。三階の角部屋には確かに分厚いカーテンがかかっている。巧は歩きながら目をこらした。現在時刻十五時半、まだ誰もいないだろうか。
自然に通りすぎようとして、つい部屋を見あげて歩調を緩めてしまった。

「あの」

突如背後から声をかけられ、巧は肩を震わせた。振り向くとそこには制服を着た男子高校生がいる。黒い髪で背は高くない。目が大きく幼い雰囲気のある少年だ。
そして巧は気づいた。帝旺学院の制服を着ている。張り込み時、巧が最初に発見した少年だ。

「刑事さんですか?」

少年はおずおずと尋ねてくる。巧が返答に迷う横で、誉があっさりと答えた。

「ええ、鳥居坂署の刑事ですよ。こんにちは」

笑顔こそ浮かべていないが、かなり友好的な表情をしている上司に、巧は少々ビビった。こんな柔らかな雰囲気を醸せる人だったのか。

「あの、何か調べているんですか?」
「振り込め詐欺が多発しているんです。今日はこうして地域にビラ配り。きみも一枚もらってくれますか?」
「あ、はい」

少年は素直に受け取って、誉の顔をじっと見つめる。好奇心と不審が交じった顔だ。ドラマみたいに警察手帳でも見せてあげた方がいいだろうか。

「よく、俺たちが刑事だとわかったねえ」

ごくごく素朴な疑問として口にした。少年が今もらったばかりのビラを持ち上げて見せた。

「マンションの玄関に貼ってあったこのチラシを持っていたから。刑事さんって間近で見たことないし、捜査中かなってワクワクしちゃって。ご迷惑でしたか?」

巧はぶんぶんと手を横に振る。捜査中という言葉にちょっと気分がいい。

「全然大丈夫だよ」

それにターゲットとしてリストアップした少年のひとりだ。興味深い相手ではある。横から誉が尋ねる。

「このマンションに住んでいるんですか?」