「なるほど。それでは、居住者のお部屋にこのチラシをお配りしてもいいですか?」
「それならそこの集合ポストにね」

巧がビラを持ってポストに近づき振り向いた。

「あの、空き部屋はどことどこですか? あまり枚数がないので、入居のお部屋だけに配りたいんですが」

要請に、管理人はよっこらしょと小窓から身を乗り出す。

「賃貸だから入れ替わりがあるんだよな。今は二十四戸中十八戸しか入居してないんだ」

部屋番号を指示され、そこにビラを入れ、作業は終了だ。

「居住者名簿みたいなものってありますか?」

ポストには名前がついていないものが多い。巧がそれとなく口にすると、管理人は胡散臭そうな顔をした。

「刑事さんでも簡単に開示できないんだよね。そういうの」
「ごもっともです。管理人さんが居住者を把握しているか確認しているんですよ。形式上伺っているだけですので」

誉が穏やかな口調で言い、ふたりは礼を言ってマンションのエントランスを出た。

「どの部屋が拠点かわかりませんでしたね」

近くの公園まで歩きながら、巧が言う。

「ああ、言ってなかったが、部屋は特定してある。管理人から情報が取れればと思って立ち寄ったが、難しそうだな」
「もう特定してるんですか?」

やっぱり仕事が速い。というか、先に教えてくれよ、と思う巧である。

「これを見ろ」

誉がスマホを取り出し、マンション外観の画像を見せようとするので、巧は先回りして言った。