ふたりが向かったのは、南麻布の拠点のマンションである。
梅雨時の空はどんより曇り、今にも雨が落ちてきそうだ。空気が湿っている。

「このマンションに直接乗り込むんですか?」
「馬鹿か、階。そんなことして解決するなら、警察はいらない」

誉がビラを手に堂々とエントランスに入っていく。ここは犯人グループの本拠地。無防備に入って行って大丈夫だろうか。巧はおそるおそる後に続き、管理人室の小窓から中を覗き込む誉を後ろから見守った。

「すみません、鳥居坂署のものです」

中は六畳ほどの部屋だ。椅子に掛けていた高齢の男性がけだるそうに立ち上がり、歩み寄ってくる。

「はいはい、なんですか?」
「そこの掲示板に、このポスターを貼らせてほしいんです。ほら、振り込め詐欺に気を付けてという」

誉が警察手帳と一緒に、ビラを見えるように持ち上げる。管理人はうんうんと素早く頷き了承する。

「あ~、どうぞどうぞ」
「ちなみに、マンションのオーナーさんはこちらにお住まいですか? 振り込め詐欺が続いていましてね。注意喚起に回っているんですよ」
「オーナーはここに住んでいないよ。住まいは俺も知らないなあ、月一くらいで自分の不動産を見て回ってるから、来週あたりに顔出すんじゃないかな」

管理人は面倒臭そうに答えて、禿げ上がった頭を掻いている。