「高校生がそこまで考えますかね。自分たちの遊ぶ金を、悪い大人に取られるんですよ。バレなきゃいいやって思考になりません?」
「いくつか理由はあるだろうが、港区界隈にも暴力団や半グレ集団など、それなりに勢力分布がある。いざ、どこかに目をつけられ事を構える前に、有力なところに売り込みをかけるだろう。私なら、そうする」

御堂誉の価値観が一般的かはわからないが、首謀者が賢く立ち回る人間ならおおいにあり得る話だ。そして、その後ろ盾の組織から、捜査していくという選択肢も出てくる。

「ともかく、十代の若者の遊びでは済まないだろう。いくぞ、階」

誉に促され、巧はおどおどと周囲を見渡す。出かけるとは聞いていない。

「あの、どちらへ」
「現場のマンションだ。階の作った特殊詐欺注意のビラを持っていけ」
「束ごと持っていくんですか?」

誉は当たり前だと言わんばかりに鼻を鳴らした。

「あと、五分やるから、後頭部の寝癖だけどうにかしろ。だらしなさ過ぎるぞ。恥を知れ」
「え!?」

巧は自分の後頭部を触り、ぴょこんと跳ねたひと束の髪に気づいた。
五分でどうにかなるだろうか。いや、しなければ……。