「今日の件は、諸岡課長に伝えてひとまず終わりだ。階はこれ以上動かなくていい」
「はい。あの……、足柄刑事の前で、庇ってくださりありがとうございました」
「いいさ。おまえも昼間、卯木から私を庇った。お互い様だ」

低く答える誉もまた、今日は随分とストレスのたまる一日になってしまったようだ。彼女があそこまで挑発的な態度をとるということは、怒りの現れだろう。

「どいつもこいつも、なにもできない連中ばかりで困る。人数ばかりそろえて座っているだけ。群れて草でも食んでいればいいのに、吠えてくるから迷惑だ。刑事の矜持など持ち合わせていないのだろうな。羊どもは」
「捜査一課は……その……個人主義なんですかね、やっぱり」

捜査一課時代のことを面と向かって聞いたことはなかった。でも、今なら酒の席だし、少しは話せるだろうか。誉が顔を上げふうと嘆息し、答える。

「個人主義も個人主義。全員、自分が一番だと思ってるエゴイストの集団だよ」
「えっと、……あの」
(それはあなたもそうじゃないんですか?)

巧は彼女に言えない言葉を飲み込む。思いのほか、誉はすらすらと話してくれる。

「表向き協調しておいて、腹の中じゃ馬鹿にしてる。自分が手柄を上げることしか考えていない。いっそ、出世すらどうでもいいヤツも多い。ずっと現場で、捜査一課という場所で刑事をやっていたいというねじの外れた連中ばかりさ。自分以外は全員敵、蝮の巣窟だよ」

でも、そんなあなたには相棒がいたんですよね。
巧は心の中で呟いた。同期同教場の戦友みたいな存在がいたんですよね。そして、彼は今でも一課でエースとして輝いている。
どんな想いで、彼のことを見るのだろう。御堂誉にとって、陣馬遼という人は、今どんな存在なのだろう。