「泣くほど悔しいか。感情的になると、争い事は負けるぞ」

自らのデスクにどさりと資料を投げ捨て、誉が言った。

「でも、御堂さん、俺ら一生懸命やってるのに、どうしてあんな態度をとられなきゃなんないんですか? そんなにくだらない仕事してますか?」
「連中は目の前のものしか見えていない。今すべきことだけでスケジュールを埋めて満足している。それでは警察組織に先はない。大事なものは守れない」

そこまで言い、誉は勢いよくオフィスチェアに腰かけた。彼女もまたひどく疲れた様子だった。

「まあ、あとは私が嫌われているからな。素直に言うことを聞かない輩は多いだろう。そういった点では、部下のおまえには苦労をかける」

巧は驚いた。誉が直接ではないが謝罪に近い言葉を口にするとは思わなかったのだ。

「よし、少し気分がクサクサしているし、今日は私が酒でも奢ろう」
「え!? 御堂さんがですか?」

ふた月仕事をしてきて初めての酒の誘いに、巧は目を剥く。今日は驚くことの連続だ。

「アルハラだというならやめるが」
「いえ! ご馳走になりたいです!」

巧はきをつけの姿勢から勢いよく頭を下げた。