鋭利な刃で切り刻むように言い、酷薄に微笑んだ御堂誉は、巧の目から見てちょっとぞっとするほど綺麗だった。普段はそんな感情を抱かないし、今現在もそんな場合ではないけれど。
しかし、こうまで言われて黙っているほど年嵩の同僚は賢くはなかった。
卯木が立ち上がり、立ち去ろうとする誉の肩を掴んだ。

「おい、御堂。調子に乗るなよ」

底冷えする声は怒りを押し殺したもの。おそらく華奢な誉の肩を掴む手にも、相当な力が込められているだろう。

「一課を追い出された分際で、いつまで捜査ごっこをやってんだ? 犯抑の仕事に戻れよ。おまえはそのガキどもが悪さをしてると睨んでるんだろうが、それを捜査すんのは刑事課だ。おまえらじゃねえ。そして、忙しい俺たち生安でもねえ」
「ああ、少なくとも重要人物を逃すヤツに仕事は頼めないな」

くすりと挑発的に笑って見せる誉の襟首を、卯木がデスクごしに掴みあげた。軽くて小柄な誉の身体は大男の手で簡単に引き寄せられ、吊り上げられてしまう。
しかし、ほぼ同時に巧の腕が動いた。
卯木の大きな手を拳で上方にはじき、誉の身体を取り返し、自らの後ろに庇う。一瞬の出来事に、生安の面々が目をみはるのがわかる。

(御堂さんが挑発するからこんなことに!)

庇う形で手を出しておいて、巧は慌てながらも卯木に一礼した。

「失礼します!」
「知っているか、階。年を取ると、前頭葉の我慢をつかさどる部分の働きが悪くなる。衝動性が高くなるらしいぞ。気を付けねばならないな」
「御堂さん、ちょっと黙りましょう!」

暴力を振るわれそうになったことなど微塵も気にしない様子で、楽しそうに挑発し続ける誉の背を押し、巧は生安を後にした。
卯木がどんな目で誉を見ていたかは確認しなくてもわかる気がした。