「御堂、おまえ本当に暇だな」

卯木は小柄な誉をじろじろと見つめる。オフィスチェアにふんぞり返っている姿勢も横柄で威圧的だ。

「質問の答えになっていないですね」
「おまえらのリストがなんだってんだ。ああ、見てねえよ。意味ねえからな。その場所で、何か巨大な犯罪が行われてる証拠でもあんのか? ガキが集まってたむろしてるってだけで」
「一週間以上、マンションの一室に複数人が集まっています。シフトでもあるかのように日替わりで。面子は地元の高校生。半グレ集団と付き合いのあるような少年も混じっています」

半グレ集団とは、地元で悪事を重ねている反社会的な若者たちが組織化したものの通称である。

「そして、その少年の中から自転車窃盗をした者が現れた。それを適当に調書を取って返しましたね。リストを見ていれば、裏に組織的な犯罪があるか否か検討できたでしょう。調書の取り方も違っていたはずです」
「うるせえな! おまえらと違って、こっちは暇じゃねえんだよ。いいか? 犯罪もなにも起こってないところで、俺たちはすることなんざねえんだ。そんなこともわかんねえのか、オジョウチャン」

侮蔑的な態度を示されても誉は一切怯まない。怒鳴るでもなく淡々と冷たい刃物みたいに相手を追い詰める。

「先を見据える力がないというのは害悪だな、卯木警部補。同じ階級であることが恥ずかしいよ」
「ああん?」
「ひな鳥のように口を開け、事件待ちをしている以上、おまえの口に美味い物は入ってこない。そうやって何十年も馬鹿ヅラを晒してきた結果が今だ。定年までの時間潰しご苦労だな。こちらも仕事を託す人間を間違えたようだ。詫びておくよ」