翌週のことだ。
梅雨入りし、じめじめとした犯罪抑止係のオフィスでは、エアコンが稼働している。
省エネも大事だが、古い建屋のオフィスにカビが発生するもの嫌だ。自分を主張しない古嶋が珍しく『カビのアレルギーなのでエアコンの清掃と稼働をしたいです』と言いだした。
そんなわけで、午前中いっぱいをかけて井草と古嶋、そして巧の男三人はエアコンを掃除した。フィルターを綺麗にし、エアコン用のスプレー剤をかけ、本体を拭く。窓を開けて稼働させ、エアコン内部を乾燥させる。
外は今にも雨が落ちてきそうな曇天だが、掃除を済ませた三人は満足感から爽やかな気持ちでいっぱいだった。井草の無精ひげも、古嶋の長い前髪も不思議とスッキリ軽やかに見える。
こんなイレギュラーな掃除に時間をかけられるのは、御堂誉がいないからではあった。今日、彼女は本庁に用事があって出かけている。

午後には鳥居坂署に戻ると聞いていたが、彼女が帰還したとき、その表情の険しさに巧は何かよくないことが起こったと感じた。

「階、来い」
「はい!」

誉の手にあるのは任意捜査簿の写しだ。
任意捜査簿とは、夜間帯に署内で取り調べなどをした際に作成する書類であり、鳥居坂署では一階の宿直責任者席の前に、出勤してきた幹部の決済のため置かれている。ある程度自由に見ることができ、これで昨夜どんな事案があったかを把握する署員も少なくない。

「この自転車窃盗の少年だ、見てみろ」
「生安の扱いですよね」
「写真がないとわからないか。おまえが張り込んだあのマンションに出入りしている少年のひとりだ」
「あ!」

リストを最終的にまとめたのは巧だ。名前の字面に確かに見覚えがある。