「二十六歳で警部補の超スピード出世女だろ? 協調性ゼロで性格クソ悪って俺の先輩が言ってたけど」
「上司も被疑者も怒鳴るし殴るって。問題起こしまくりで、一課から飛ばされたって噂を聞いたぞ」

思いのほか上司が有名人で、巧は返す言葉もなく黙り込んだ。一課や鳥居坂署の関係者は御堂誉を知っているとは思っていたが、悪評は警視庁内のそこかしこに広がっている様子だ。上司や被疑者を殴ったというのは完全に尾ひれのレベルだが。

「カワイソー、そんな女の下にいたら毎日がパワハラだろ」
「いや、そんなことないけど……」

巧は視線をそらしながら言葉を選んで答えた。当たらずとも遠からずとは言えない。言いたくない。

「つうか、そこで働いてたら、階も真っ当な評価されないんじゃないか? 早く異動できるように希望出しとけ。機動隊なら、すぐに異動できるんじゃないか?」

確かに御堂誉は嫌な上司だ。しかし、他人から言われるとどうも釈然としないもので、巧は唇を結び返事を迷っていた。

「籠原、中町、そんな言い方はよせ。俺は、御堂警部補が一課にいた頃を知ってるけど、彼女は理知的で弁舌の鮮やかな女性だよ。捜査能力が高いし、処理も判断も早い。緻密に何歩も先を読んで動く人なんだ。確かに自分の主張を通すために上と喧嘩になることも多かったけど、それだけ仕事に情熱のある人だよ」

大西が横から勢いよくフォローをする。その言葉に、自分がこそばゆいような気持ちになる巧だ。