「巡査長の時は、先輩たちの手足じゃん? ひたすら必死に動くだけだったけれど、巡査部長なら視点変えて行かなきゃ駄目だよな。一課の先輩たちが強者過ぎて、ついていけるのかなって時々不安になる。……ってつい弱音、ごめんな! お前らの前だと気が緩んじゃうよ」

謙虚だが芯の強さを感じる大西の言葉に、巧はため息を噛み殺した。
本当は意地悪な言葉でも投げつけてやりたい。そんな弱気で一課の捜査員が務まるのかよ、などチクリと言ってやりたい。
しかし、この非の打ち所のない同期のことが、巧もまた大好きだった。
彼の人柄は尊敬するし、大事な仲間だと信頼している。
悔しいが、今日は祝うしかできない。そしてこの悔しさをバネに、自分も昇進するしかない。

「そうだ! 大西、あの陣馬(じんば)警部補と組んでるってマジ?」

籠原が尋ね、中町が「俺も聞いた!」と重ねてくる。一転、大西は嬉しそうな表情になり、こくこくと頷いた。

「うん、陣馬遼(りょう)警部補とコンビ組ませてもらってる。めちゃくちゃ仕事できるんだ、陣馬先輩」
「うわ、いいな! あの陣馬警部補だろ。この前、テレビ写ってたよな。目黒の連続殺傷事件の犯人逮捕の時」

陣馬遼という名前は巧も聞いたことがある。
現在二十八歳。昨年、警部補試験に合格し、今季から捜査一課に戻ってきた堂々たるエース刑事の名前だ。