「やっと起きたか、この怠け者。始業時間を十五分オーバーでいまだ布団の中とは何事だ。救いようのない穀潰しだな。恥を知れ」

御堂誉はメガネの奥の氷点下の瞳をさらに冷たく凍りつかせ、巧を見下ろしていた。
寝坊した部下をわざわざ起こしにきた上司の言葉に、巧はようやく頭の回路が繋がった。がばっと上半身を起こし時間を確認する。

「十五分オーバー……。わああ! 本当だ!」

壁時計は八時四十五分を指し、始業時間はとっくに過ぎていた。誉は巧の上から退いたが、いまだベッドの上で仁王立ちしている。狼狽と混乱の中にいる部下を、見下げ果てたという表情で眺めているのだ。
巧は慌てて身体を起こし、ジャージ姿のままベッドの上で上司に土下座した。

「誠に申し訳ありませんでした!」
「私の部下になってから三回目の遅刻だ。たるんでいるというより舐められているのではと不安になってきてな。今日は迎えにきてやった」

怒りを押し殺しているのではなく、本当に使えない人材を哀れんでいると言いたげな冷え切った声だ。巧は頭を下げるばかりだ。

「昨夜、生活安全課の野方(のがた)さんと卯木(うつぎ)さんに飲みに連れて行ってもらいまして、気づけば深夜を回っていました。いえ、けして言い訳をするわけではないんですが」
「そうだな。飲むのはコミュニケ―ション上悪くないが、それを遅刻の理由にするのは警察官失格、いや社会人失格だな。恥じろ」