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張り込みからも解放されたその日、久しぶりに同期と飲むことになっていた巧は、退勤後に新宿まで出かけた。
歌舞伎町の居酒屋に集まる四人は、どこにでもいる若者で、私服で集まればとても警察官には見えない。
なお、警察組織における同期とは警察学校の入校時期が同じであり、同じ教官について同じ教場で学んだ間柄を言う。
今日集まったメンバーは巧には一番仲の良い面子で、卒業配置後もちょくちょく連絡を取り合い、時間が合えば酒を酌み交わす仲だ。
「階、遅いぞー」
小上りの席から顔を出して巧を呼んでいるのは籠原(かごはら)だ。現在、北多摩地区の地域課に勤務中である。
「今日は残業回避っつっただろ? 階、のんきだからな~」
席に到着した巧に中町(なかまち)が笑った。こちらは、ベイエリアで交通警邏隊を務めている。仲間内では唯一の既婚者だ。
「階は真面目で良いヤツだから、仕事引き受けちゃうんだよ」
屈託なくフォローしてくれるのは、一番仲が良い大西(おおにし)才太郎(さいたろう)である。
「いや~、すまん」
謝る巧は、大西の澄んだ瞳に、『書類に印をもらい忘れて居残りしていた』とは言えないのであった。
巧の到着と同時に生ビールのジョッキが運ばれてくる。四人は勢いよくジョッキをぶつけた。
「大西、捜査一課配属おめでとー!」
今日集まった一番の理由は、同期の中でも生え抜きの大西才太郎が捜査一課に異動したことであった。