南麻布の目的地のマンションはごく普通の鉄筋の作りで、建造されたのは昭和の時代だろう。外壁などは直してあるようだが、全体の雰囲気が古めかしい。この辺りは元々こういった古いマンションが多い。
マンションのエントランスから見える位置に陣取れば、確実に出入りする人間がわかるはずだ。しかし出入りする側からもこちらが見えてしまう。
そこで、マンションの裏手のコインパーキングのひとつを借り、車の中から張り込むことにした。
エントランスに入る人間は概ねわかるし、コインパーキングは路地に入ったところにあるため、車にずっと乗っていても目立たない。当然、監視カメラもマンション前の民家の目立たぬ位置に設置させてもらってある。

午後十五時半、張り込みを始めてすぐに、高校の制服を着た男子がマンションに入っていくのが見えた。
早速だ。しかし、まだ該当の少年たちかはわからない。
幼い雰囲気の残る少年である。助手席にいる誉がためらいなくスマホで写真を撮った。

「いいんですか? 撮っちゃって」

勝手に撮影した写真は証拠には使えない。誉は虫でも見るかのように、巧を見た。

「門外秘の資料だと言っているだろう。社内用だと。それとも、おまえはひと目見てすべての人間の顔を覚えられるのか? 私は無理だが、おまえができるというなら、ぜひやってもらいたいものだ」
「すみません。覚えられないです。すみません」

そんなにきつく言わなくてもと思いつつ、反射的に謝ってしまう。
一緒に仕事をしてまだひと月半ほどだが、御堂誉にはどうやっても強く出られない巧だ。