警察の仕事は事件ありきだ。未然に防ぐということは仕事に当たらない。
しかし巧は思った。犯罪の気配を嗅ぎ取り、調査するなら、これこそ『犯罪抑止係』にふさわしい仕事ではないか。目を輝かせて尋ねる。

「それでは、今日はここから張り込みですね!」

意気揚々とした言葉に、誉がくいっと後部座席を指差した。

「階、おまえの仕事はまずアレの設置だ」

巧が運転席からそろりと振り返ると、そこには段ボールいっぱいの監視カメラが置かれてあった。ばさりと地図も手渡される。

「私が指定した場所すべてに九十分以内に設置しろ。民家だ。事前に断りは入れてあるが、必ず住民に声をかけろ。目立つな。そして、角度を考えて設置しろ。一応、設置位置は指定はしてあるが」
「俺ひとりですか……?」

おそるおそる尋ねると、誉は心底呆れたように答えた。

「当然だ。大がかりに動いて目立てない。脚立はあるぞ」

脚立は大事だが、人手がひとりとは……。愕然とする巧に、誉がジャンパーを放り投げてくる。カモフラージュ用だろうか、背中にどこぞの社名の入った代物だ。業者を装って取り付けるのだ。
カメラはどう見ても三十台くらいあり、巧は上司の横暴に泣きそうな気持ちになった。