巧は答えながら、はたしてそうだろうかと疑問を覚えた。彼女が時間を割くなら別に理由がありそうだ。
確かに普段は、『これ本当に必要?』というような仕事しか指示されていないが、御堂誉が噂通りの切れ者なら、警察官の責務と親切心だけで動くとは思えない。
巧が言葉にしかねていると、誉はふうとため息をついた。察しの悪い部下に呆れているというような雰囲気だ。

「諸岡課長が私たちに頼んだ理由を考えろ。少年たちが特定の場所にたむろしている。そして、ここに犯抑でまとめた鳥居坂管内と都内全域の特殊詐欺の統計がある」

手渡された資料は、振り込め詐欺の手口をまとめたものだ。

「銀行協会を名乗り、カードを預かるという手口。どこでもある手口だが、ここ半年同じ文言の電話がすべて十五時~十八時の間に来ている。受け子の若者が二十時までにカードと通帳を引き取りにきて、即日現金を引き出しているのも同じ。そして被害者は二十三区内に散らばっているが、表を見ればこの鳥居坂近辺から同心円状に被害が広がっているようにも見える」

巧は言われるままに紙の資料を繰る。統計なのである程度ばらつきがでるのが普通だが、誉の言う通り、同じ犯行グループによるものと思われるものは際立って見える。

「御堂さん、それじゃ」
「電話がかかってくる時間帯と、受け子の少年があまりに若いという証言から、学生グループである可能性を考えていた。今回の情報をもらったときに、合致しているかもしれないと思ってな」

世間話程度の相談だった。しかも、誉は聞き流しているようにも見えた。
そこまで考えていたとは驚きだ。