「お願いしておいた件ですが」
「はい、御堂さん。マンション裏手のコインパーキングはオーナーに一ヶ所確保してもらっています。カラーコーンがあるのですぐわかると思いますよ。カメラ設置の件も御堂さん指定の全戸で了承を得ています」

巧にはなんのことやらわからない。ただ、加藤の元へ来た時点で、先日の相談事案についてなのは察せられた。驚いた。あの場では事務的な受け答えしかしなかった誉が、すでに段取りをつけて動いているとは。

「住民の方の窓口はすべて加藤さんにお願いしたいです。カメラは長期間の設置になりますし、位置を変えたい、やはり外したいなどご要望がありましたら、直接署ではなく加藤さん経由で私へ」
「ええ、ええ、お任せください。署内で御面倒がおこらないようにいたします。よろしくお願いしますね」

加藤は気安く請け負う。巧ひとりがわけもわからず首をひねっていた。

印刷所を出て車に戻り、ようやく巧は誉に尋ねた。

「御堂さん、これってこの前の件ですよね。俺たちが勝手に動いちゃっていいやつですか? 俺たち犯抑には捜査権ないんですよ」

犯罪抑止係に捜査権はない。事件が起こっても、調べて逮捕するために動いていい部署ではないのだ。

「階、おまえにはこれが“捜査”に見えるのか?」

誉が馬鹿にしたような目で見る。巧は焦って言葉を探すが、迷っているうちに誉が畳みかける。

「本件は相談事案だ。地域住民の不安を解消するために、警察官が動くことに理由がいるのか?」
「いえ、理由はいらない……です」