「こんにちは、鳥居坂署でーす」
「管内で特殊詐欺が多発していまーす」
スーツに防犯腕章をはめ、巧お手製の『振り込め詐欺に気を付けよう』ビラを手に、鳥居坂署犯罪抑止係の面々は麻布十番駅近辺で活動中である。
午前九時、行き交う人は会社員が多く、ビラを受け取ってくれる人は少ない。遅刻であろう女子高生にぶつかられ、ビラを受け取ってくれたおばあちゃんには「うちの人がこの前騙されちゃってねえ」と被害相談をされ、小一時間ほど捕まる。巧にはいつもの仕事だ。
もちろん同僚の井草も古嶋も参加しているが、井草は女性会社員ばかりを狙って声をかけるし、古嶋は声が小さく、肘を曲げた格好でビラを差し出しているので誰も受け取ってくれない。
「よし、次はATM警戒だ」
誉の号令で、四人は麻布十番の銀行ATMの見回りに入る。ATMを使う高齢者に声掛けをし、不審な振り込みがないか確認するのだ。
これはなかなか効果的な防止策なのだが、残念ながら鳥居坂署犯罪抑止係ではいまだ目に見える成果を残していない。
ビラくばりとATM警戒を実施すると、午前も終わる時刻となっていた。
「御堂係長~、そろそろ帰りませんか~」
井草がうーんと伸びをしながら提案する。
ビルの隙間に差し込む初夏の日差しは強く、午前いっぱい外にいると随分日焼けしたように感じる。私服勤務の犯罪抑止係はかっちりスーツ姿である。背中は汗で気持ち悪いほどだ。