その後も酒宴は進み、巧はしたたか酔ったものの、どうにか自力で帰れる状態で料亭を出た。これなら鳥居坂署まで歩けそうだ。

「御堂、さっきの件頼むね」

巧は並んで歩く誉と諸岡の話をふわふわした頭で聞いた。千鳥足にならないように必死にふたりについていく。

「いいですが、生安の少年で扱ってもらう事案かもしれませんよ」

生安の少年とは、生活安全課の少年係のことだ。少年事件を担当している。

「話は通しておくよ。困ったら、御堂が直接話して、協力を要請してくれていいから」
「諸岡課長はいつもそう言いますが、あなたの部下たちは私の話はまったく聞きません。時間の浪費だそうです。クズの老害どもと対等に仕事の話ができると思いますか?」

悪態をつく誉に、諸岡が明るく答える。

「あいつらもプライド高いからなあ。私としては、この件は丸ごと御堂が仕切った方がいいと思うよ」

誉の背中はその言葉に対して何の反応も示さない。巧は酔った頭で考えた。

(御堂さんが捜査するってこと? 犯抑って捜査権ないよなあ)

頭はよく回らず、署の独身寮にたどりついた巧は携帯アラームをセットすることなく、ベッドに沈んだのだった。