署内の先輩に飲まされて三回も遅刻してしまった自分が悪いのは間違いない。
しかし、御堂誉はいつもこうだ。とっつきづらいなどというレベルではない。巧よりふたつ年上なだけなのに、異星人にしか思えないほど意思の疎通が難しい。
二十代女性の柔らかさは皆無。思考も言語もかけ離れていて、言葉でわかり合うことはできない気がする。巧の二十六年の人生で初めて出会うタイプの面倒な人間だ。

「本日はお集まりいただきありがとうございます」

巧の緊張をよそに、乾杯から懇親会がスタートした。

「今日お話しさせていただきます、犯罪抑止係の階です。皆さんには初めてご挨拶させていただきますね」

諸岡に紹介され、巧は席から立ち上り、頭を下げる。

「よろしくお願いいたします。犯罪抑止係の階巧と申します」
「よろしくお願いしますね、階さん。まずは一杯」

加藤をはじめとした会員たちが、次々に巧の下へやってきてはビールを注いでいく。
まがりなりにも大学は空手部だ。酒の付き合いは問題ないと思っていたけれど、講話をするとなると話が違う。そして、加藤ら中高年の住民は若手に酒を飲ませることが純粋に楽しい様子だ。
次から次に酌をされ、日本酒のとっくりまで持って来られ、巧は慌てた。