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「防犯協会の会合?」

午後のオフィス、突然振られた仕事の話だ。聞き慣れない言葉に巧は首をひねった。

「そうだ。防犯協会を聞いたことがないか? 地域住民の有志から成る会だ。鳥居坂署とは緊密に連携を取っている」

PCに向かい合った姿勢で誉が答える。地元住民が組織する防犯協会の存在は、巧も聞いたことがあった。

「諸岡課長が参加するが、今回は私と階も参加だ」

地元住民の前で講話をするのが、今回の仕事らしい。鳥居坂は都心のど真ん中だが、古くから住まう人々のコミュニティは強いようだ。

「わかりました。御堂さんの講話、勉強させていただきます」

元気に答えると、誉が鬱陶しそうな視線を投げてくる。

「なにを言っている。防犯講話をするのは、階、おまえだ」
「ええ!? 俺ですか? そ、そんな経験ないですよ!」
「それは幸運だな。経験値が増えるぞ」

誉は無表情で言い、PCに視線を戻してしまう。まったく取り合う気はなさそうである。

「講話ってどういったことを話せばいいのか……」

誉の傍に寄って、おそるおそる尋ねる。巧の現在の仕事は、毎日ご町内をパトカーでアナウンスして回る程度のものだ。話せる内容はほぼない。