巧は慌てて誉と刑事たちの間に盾になるように割って入った。

「み、御堂さん、行きましょう。はは、……失礼します」

引きつった笑顔を刑事たちに向け、背中に誉を隠す。なにしろ、彼らは今にも殴りかからんばかりに気色ばんでいる。
しかし、さすがに大人として怒りを抑えたようだ。顔は全員が般若のままだが。
一方、誉は言いたいことを言いきってスッキリした様子で、巧を追い越しエレベーターに向かってさっさと歩いて行ってしまった。
巧は刑事たちに一礼して慌てて誉の後を追った。刑事たちが恩讐のこもった視線を誉に向けているのは、ビシバシ背中に伝わってきた。
嫌になる。御堂誉の下ではこうした諍いが週に一度は起こる。
二十八歳で警部補でこの態度。それは嫌われるだろうし、軋轢も生むだろう。
しかし、御堂誉の部下というだけで何もしていないのに睨まれるのは、つらいものがある。

「御堂さん、俺あの人たちの何人かと剣道の朝練で会うんですけど」

一応背中に言ってみるが、彼女はこちらを見もしない。

「それがどうした」
「気まずいっていうか、たぶん俺、目の仇にされてボコボコにされます」

署内の道場は毎日、柔剣道の朝練をやっている。巧は地域課時代から剣道で通っていて、署対抗の練習試合には毎度駆り出される身だ。

「そうか。では、闘って勝ってこい。私の言葉を嘘にしないよう励めよ」

相変わらず部下への気遣い皆無の言葉に、巧は誉に聞こえるように大きくため息をついた。
誉は部下の苦悩は無視である。きっと、今は昼食のことを考えているのだろう。