すると、巧の横で誉がにいっと微笑んだ。冷たく整っているのに、野生動物のような野蛮な気配の笑顔を見せる。

「それでは、今この時間が一番無駄ですね」
「は? なんだと?」
「あなたたちと話すのは、“どうでもいい仕事”ですから。時間をかけていられませんよ」

彼女より少なくとも十歳以上は年上であろう刑事たちに、一歩も引かないどころか、攻撃的なセリフを吐く。巧は苛立ちより焦りを覚え始めた。上司が明らかに喧嘩を売っているのだ。

「犯罪抑止の活動をどうでもいいとは、仮にも警察官の言葉とは思えません。驚いた。そんな意識と程度の低い人間が捜査課の刑事であることに鳥居坂署の落日を感じますよ。いやあ、驚きだ」

顔色が明らかに怒りに染まっていく年上の刑事たちに、誉は酷薄に微笑み続ける。

「こいつは使えない部下ですが、あなたたちよりは身体と頭が動きます。若さはそれだけでアドバンテージだ。いいご年齢にさしかかり、動けないというより動かない刑事は畜生にも劣ります。精々今からできることを探して、励むことですね」
「御堂、てめえ」
「まあ、最初からあなたたちが使える人材なら、こんな小さな署で隙間仕事はしていないでしょう。餌の取り方を忘れた肉食動物の哀れなこと」

ああ、もうやめてくれ。自分から署内の摩擦係数をあげにいくのは。
御堂誉といると、こんな光景に遭遇するのも一度二度ではない。しかし、こうも頻繁だと巧も居たたまれない。