「犯罪抑止係は慣れた?」

気づけば巧が異動してきて三カ月と少しが経っている。犯罪抑止係への異動で直談判したことが妙に懐かしい。

「はい。慣れました」
「御堂の下で苦労してる?」

尋ねてから諸岡はぷっと吹き出した。

「ついこの前も苦労したばっかりか。たくさん、怒られちゃったね、階」
「いえ、あれは……。俺もいい経験をさせてもらったと思ってます」

社内ではにらまれ、未来も明るくはないが、それでも御堂誉の下で捜査できたこと、犯人を見つけ出し逮捕できたことは、巧の中に大きな成果をもたらしていた。警察組織に入り、どうにも空回っていた自分が、初めて出せた成果だ。認められないものだとしても。

「御堂の捜査は勉強になったか。それはよかった」
「諸岡課長のおっしゃった意味が少しわかったような気がします。御堂さんは基本に忠実。俺は指示された通りに動いただけですが、捜査一課の人間が何人がかりでやるんだろうという捜査をたったひとりでこなしてしまう。処理能力が速いのもあると思うんですが、恐ろしいほどストイックで勤勉だと思いました」
「あれでも少ない方だよ。着眼点が違うから、最速の処理で済む。裏付けも無駄がない。だから、ひとりでもこなせる。スピードは気味が悪いほどだけどね」

諸岡はははと笑った。

「で、御堂の下でこれからもやっていけそうかな」

ああ、そうか。巧は思った。諸岡は巧の直談判を心に留めておいてくれたのだ。
巧はしっかりと頷いた。