「できました!」

大声を張り、誉の前に大盛のチャーハンを置く。
フライパンの限界に挑戦した結果、炊飯器の三分の二が消費された大ボリュームだ。巧は自身の前にも誉の半分くらいのサイズのチャーハンを置いた。

「うまそうだな! ん? 階、おまえの分、量が少なくないか?」
「いや、作ってたらあんまり腹が減ってないことに気づきました」

本当は事件後のやりきれない扱いや、陣馬と誉の会話が気になって、ここ数日食欲がなかった。メンタルは弱くない方だとは思っていたが、案外繊細なところがあるのだと実感する。

「馬鹿か、おまえは」

誉がため息をつき、自分の皿からスプーンでチャーハンを取り、どさどさと巧の皿に移し始める。

「御堂さん、お腹空いてるんですよね。俺はいいんで食べてください」
「うるさい。しっかり食べろ。食べることも鍛練だ。習わなかったか?」

大食の御堂誉が食べ物を分けてくれるとは、なかなかレアケースだ。作ったのは巧本人とはいえ。

「食べて働け。命令だ」

同じような量に均されたふたつの皿。誉は両手を合わせていただきますと呟き、猛然と食べ始めた。

「うん、うまい。とてもうまい。メシのセンスだけは階を評価する」
「あ、ありがとうございます。メシのセンスだけでも嬉しいです」

黙々と食べ進めながら、さりげなく誉が言った。

「今回のおまえはまあまあ役に立った」
「え」

誉の真摯な瞳が巧に向けられる。

「ありがとう」

それは、チャーハンの件ではなく、おそらくは事件についての言葉。誉の口から、真面目に御礼の言葉が出て、巧は狼狽した。

「いえ、もったいないお言葉です」
「まあ、食べろ」

黙々とチャーハンを食べ、誉は帰っていった。余った食材は小松菜とオクラ以外持ち帰らなかったので、明日の巧の食事になる予定だ。