『御堂』

陣馬が言った。

『今回は一課に手柄を譲ってくれありがとう』
『おまえたちじゃないと処理できないからな。それに陣馬と大西には協力してもらった』

雪緒の前で証拠をつきつけ自供を促したのは誉たちだが、実際の逮捕送致は捜査一課の仕事となった。誉と巧がそろえた証拠は丸々一課に渡している。

『御堂警部補が動いたから解決したことは公になっていませんが、多くの人間が知っています』

大西も誇らしげに付け加える。

『御堂、今は耐えろ』

陣馬が告げた。元相棒をまっすぐに見つめて。

『いずれ、またおまえが一課に戻るチャンスはやってくる。おまえを疎ましく思う者は多いが、刑事部はいずれ御堂誉の能力に頼らざるを得なくなる』
『……別に私は戻らなくてもいいと思ってる』

誉がぼそりと呟いたとき、表情が曇ったのを巧は見ていた。

『それが本心なら、俺はこんなことは言いに来ない』
『私はおまえらとは違う。事件を捜査して解決するのが警察官のすべてとは思っていない。私は、犯罪抑止係でいい』

誉が感情を差し挟まない口調で言い、陣馬もそれ以上口を開かなかった。
大西を伴い出ていく陣馬を見て、巧はまた胸のざわつきを感じた。御堂誉について、自分には知らないなにかを彼は知っているのだ。しかし、それを問いただすことが巧にはできなかった。はたして〝誉の秘密〟のようなものが実在するのかすら曖昧だったからだ。こんなことを気にしている自分もまた少々変だとは思う。

そして、本日巧は微妙な気持ちを引きずったまま、上司にチャーハンを作っている。