巧にとって、この事態は非常に凹むものだった。本件には最初の最初から関わっていたし、最後の二日は裏付け捜査のため、ふたりで何時間も防犯カメラを見つめ、方々手回しして証拠を集めた結果、捜査一課より先に結論にたどりついたのだ。これほど頑張ったのに、署内の誰も認めてくれないどころかバッシングの嵐。どれほどメンタルが丈夫な巧でも、心が折れそうになる。
なにより、憧れの捜査一課がまた遠のいた。どころか道が閉ざされたと言ってもいいかもしれない。鳥居坂署にいるうちは刑事課には呼んでもらえないだろうし、本件を知っている人間が多い以上は捜査一課に呼ばれる日はこないだろう。

『そうでもない。あの御堂誉の下で、補佐をしたということは評価に値する』

陣馬遼がフォローなのか言ってくれた。先日後片付けに鳥居坂署を訪れ、大西とともにオフィスに寄っての言葉だ。

『御堂は人格が残念だが、刑事としては一流だ。それを評価し、信頼している者は捜査一課にもそれ以外にもいる。今回、階は、御堂の圧力下でよくやった』
『私の人格が残念とはどういうことだ。階に圧力などかけていないぞ』

このやりとりが誉の前なので、本人が聞き捨てならない点に突っ込みを入れてくる。陣馬は『え?』という顔で誉を見返すのだから、おそらく意識して罵倒していない。やはりエース刑事は少々天然気味だ。

『階、これで刑事部に名前を売れたんだよ! プラス思考で行こうぜ!』

明るく元気な同期・大西に肩を抱かれ、情けないような嬉しいような苦笑いをしてしまう巧である。そうかもしれないが、悪い意味で売れても困るのだ。