「ええと、その、独身寮は寮員しか入れないんですが、上司が入るのは問題ないと思います。御堂さん、前入ってるし。俺が簡単なチャーハンの作り方をご教授しますから、覚えて家で作ってみてくださいね」
「面倒くさい。そういえば、ムサシに小松菜とオクラを買うんだった。カゴに入れろ」

提案を一蹴し、自分勝手に野菜コーナーに戻ろうとする誉に巧はため息をつく。いつものことだが。
署に戻り、上階の寮に向かうと米は無事炊けていた。
誰でも通りかかる位置に炊事場があるので、米の炊ける香りがし、巧が調理を始めれば、独身寮の住人が室内を覗く。しかし、ダイニングテーブルに腕組みした御堂誉がいるので、誰もがさっと消えてしまう。なぜ、独身寮に鳥居坂署の有名人がいるのかわからないのだろう。この調子では、米は五合炊かなくてもよかったかもしれない。

「腹が減っている。たくさん食べたい」
「わかりました。フライパンの限界量で作りますから。っていうか、こっち来て見てくださいよ。お教えしますから」
「ここからで見える。あとは、材料と作り方をメモして渡せ」
「全然覚える気ないじゃないですか」

文句を言いながらも、巧は材料を刻む。誉は椅子に腰かけたっきりだ。絶対に見ていない。

「はい、油を引いて溶き卵を入れますからね。ここでご飯を用意しておかなきゃ駄目なんですよ」

仕方ないので、大きな声で説明しながら油を熱し卵を落とした。
ここからはすべて早回しだ。フライパンを揺すりながら炊き立ての米を入れる。

「卵が固まってしまう前に米と混ぜて炒めてしまうんです。聞いてますか」
「うるさい。聞こえている」

ちらりと背後を見ると、誉はあくびをしていた。やはり絶対覚える気がない。