「チャーハンは自分で作れた方がいいと思いますよ」
「不要だ。冷凍チャーハンのクオリティを知らないのか」
「いや、うまいですけどね、冷凍。でも御堂さん、食べっぱなしで食器洗わないじゃないですか。皿洗うのもフライパン洗うのも一緒ですよ」
「最近は冷凍パックのビニールから直接食べるという技を編み出した」
「無駄な努力しないでください。チャーハン程度なら自分でも美味しく作れますから」
麻布十番のスーパーで買い物をする巧と誉の会話だ。スーツ姿の若い男女がひとつの買い物カゴを手に並んで買い物をしている。その光景だけ見ればカップルの買い物風景だ。
しかし、ふたりの間に流れる上下関係は、間近で数分会話を聞いていればすぐにわかることだろう。
「おい、卵を入れるな。使いきれないからいらない。持ち帰る前に全部割るぞ、私は」
「普通に持って歩いたら割れませんよ。卵なんて、御堂さんの好きなカップラーメンにひとつ割り入れればいいんです。そしたら、何回かで終わりですから。チャーハンは卵と油が命なんです。絶対買います」
「階の主義主張はどうでもいい。それなら、チャーシューとネギも入れろ」
誉の希望というより命令のもと、巧はチャーシューのかたまりをカゴに入れる。
どうしても大盛のチャーハンが食べたい誉が、巧に作成を命じたのが始まりである。さすがに何度も上司の家に行くのは憚られるので、今日は署の上にある独身寮の共同炊事場で調理する予定だ。匂いを嗅ぎつけてくる寮員もいそうなので、五合炊きの炊飯器いっぱいに米を炊いて買い出しに来ている。米以外の材料費は誉持ちなので、残った食材は持ち帰ってもらう予定なのだが、自炊をまったくしない彼女が腐らせてしまわないように、買うものは選ばないといけない。