「問題があるのか?」
「……いえ」

問題はない。しかし、どこかすっきりとしない。そして、淡々と事件を解決していった誉に一瞬見えた火のような感情を判じかねている。

「幸井雪緒は知らなかっただろうが、香西永太も彼といたかったのだと思う」
低い声で誉が言う。
「どういうことですか?」
「幸井雪緒は中学三年生時で、全国模試一位だ。IQは百六十。国内外の最高学府で学び、おそらくは彼の父親と同じ省庁官僚を目指すだろう。もしくは非凡な才能が花開けば、特定の分野のスペシャリストになれる逸材だ。最初こそ競っていた香西永太は、いつしか自分が幸井雪緒と肩を並べ、同じ環境に身を置ける想像ができなくなっていた」
「だから、雪緒くんを自分と同等に引きずり降ろそうと特殊詐欺を始めたっていうんですか?」
「おそらくな。ふたりそろってCrackzの幹部になるつもりだった。そうすればずっと一緒に同じものを見ていられる。香西永太は幸井雪緒を馬鹿みたいに信頼していたんだよ、最後まで」

そのことを雪緒が知っていたら、こんな事件は起こらなかっただろうか。いや、ふたりの失敗は、友情を保つために犯罪に手を染めたことだ。

「同じ秘密を共有しても、同じ環境に身を置いても壊れるものは壊れる。彼らに必要だったのは、道を分かつ覚悟だったんだ。離れても自分たちの友情と思い出は変わらないと、信じるべきだった。それだけだ」

誉の言葉は冷たくは響かない。ただ、巧の抱えるやるせなさと同種のものが、その横顔には宿っていた。