「御堂、階、お疲れ」

陣馬がひと言だけ声をかけ、誉が頷く。
巧は頭を下げ、乗用車に戻っていく陣馬を見送った。雪緒を乗せ、パトカーは走り去っていく。

「御堂さん」

最後、雪緒に対して見せた凶暴なまでの空気はすでにない。誉は空を仰ぎ、暑そうに額を拭っている。

「御堂さんはいつから、雪緒くんが犯人だとわかっていたんですか?」
「最初の最初。振り込め詐欺の主犯であることは察しがついていたけれど、殺人については、公園で遺体を見たときだ」

本当にスタートの瞬間からわかっていたのかと思うと背筋が寒くなる。ミステリー小説じゃあるまいし、あの時点で、友人のか弱い少年を思い浮かべる者がいるだろうか。

「深夜の公園に被害者を呼び出すには相当信頼されていないと無理だろう。争う物音がなかったこと、背中と首の傷から、油断したところを背後から襲撃したと想定した。そうなると、犯人は被害者より体格、腕力的に劣っている可能性が出てくる。凶器が被害者の私物であり、その場で奪ったのでなければ、事前に凶器を盗み出せる人間も限られてくる」
「泳がせて罠にかけるなんて」

犯人が誰であるか、巧も途中から見当はついていた。しかし、誉が最初から疑いを持って、陣馬と共謀して罠を張っていたことは少々驚いた。わざと捜査情報を漏らすようにしたのも、雪緒を誘導するためだったのだ。そのことに胸がざわつくような感覚を味わっている。
幸井雪緒は、確かに親友を殺していたが、十六歳の少年だったのだ。罠を仕掛け、完敗させ、精神的に叩きのめす必要はあったのだろうか。