「幼馴染で親友、相棒の永太が、自分から離れていこうとしている。知らない連中と楽しくやっている。きみはそのことが我慢ならなかったんです」
「そんな女々しいこと……思ってませんよ」

雪緒が明らかに動揺した口調で言う。

「きみは仲間はずれにされているようで苦しかったんです。ふたりで始めた内緒事を、他人と共有なんかしたくなかった。自分以外の誰かに心酔していく親友を見ていたくなかった」
「やめろよ」
「きみは香西永太をひとり占めできなくなったから殺したんです。どんな理由でも殺人はいけませんが、どんな理由より独善的で身勝手で子どもじみた動機ですね」

巧は誉の袖を引いた。誉から言葉の攻撃性と、立ち上る怒りのような空気を感じていた。自分になにができるか皆目見当もつかないが、巧は反射的に誉を止めなければと思った。怒りの奥底で、まるで彼女自身が傷ついているような気配がしたのだ。

「俺は……」

悔しそうに唇を噛みしめ、血を吐くように呟いた雪緒の口からそれ以上言葉は出てこなかった。
遠くで響いていたサイレンが、徐々に近づいてくる。間もなくパトカーと乗用車が緑地に横づけされた。他の捜査員と出てきた陣馬遼が巧たちのもとへ歩み寄る。

「幸井雪緒くんだね。振り込め詐欺と香西永太くんの事件で、話を聞かせてもらいたい。一緒に来てくれるかな」

雪緒が誉と巧の顔を見た。その表情は諦観とも呆然とも見えたけれど、素直に大西に伴われてパトカーに乗車する姿は、頼りないほど幼い少年だった。