「帰ったら特殊詐欺防止計画の企画書を作れ。今日中に私がチェックし、諸岡課長に回す」

住宅地をスローペースで運転しながら、誉が言う。
もう同じような企画書を何度も作っている。テンプレ通りなら、俺が作らなくてもいいじゃないか、と巧は心の中で呟いたが、口に出す勇気はない。

「返事がないようだな」
「は、はい! すみません! 戻ったらすぐに!」

御堂誉という上司は一般的にこう言われている。
元捜査一課の女刑事。超スピード出世の才媛。地味でブスで性格が悪く、トラブルメーカー。一課を追い出されて、鳥居坂署のお荷物係長をやっている。本人の気質のせいで組織に向かず、もう出世の目もない。
そんな御堂誉と初めて会った時、巧は場違いにも思った。
『みんなが言うほどブスじゃないけど』
誉は徹底して地味だが、顔かたちは整っていた。可愛いというより、うまくまとまっている。そんな雰囲気だ。上司と部下として出会わなければ、『ちょっといい感じの子だな』くらいには思っていたかもしれない。
同時に巧の脳裏には諸岡課長の言葉が浮かんだ。
御堂誉は基本に忠実な刑事。それがどういう意味なのか今日まで伺い知る機会もなく、日々どやされながら働いている。この先も知る機会はないかもしれない。
犯罪抑止係で自分の学べることはなんだろう。
上手なアナウンス? 似たような企画書の作成法? 御堂誉の機嫌の取り方?
もはや、わからなくなりそうだ。