「ですが、ナイフを盗み出すとき、きみは香西くんの部屋に指紋を残してしまった。隙をついて自分の鞄にでも入れたのでしょうが、彼の見ている前で手袋をはめっぱなしにもできないし、ハンカチで引き出しを拭うこともできませんからね。当初、きみは犯行をCrackzに押しつけたつもりだったのでしょう。半グレ集団の仲間入りをしたがった少年が揉め事で殺されたと。当初からきみがしていた誘導的な発言は、早い段階で、香西永太を振り込め詐欺の主犯として疑わせ、上納金がらみの殺人であると印象づけたかったから」

雪緒は挑むように誉を見つめている。

「しかし私の情報で、一課が知人による強盗殺人で動いていると知ってしまった。場合によっては、香西永太の部屋も詳細に捜査されるかもしれない。そのとき自分の指紋が出てはまずい。特にナイフの入っていた引きだし周りからの指紋は、身が危うい。焦ったきみは、亡くなった彼に会いに行った際、ある行動をとりました」
「永太と最後の別れはしてきましたが、それに文句をつけるんですか?」
「まあ、聞いてください。きみは香西くんを惜しむ体で、彼の私室に入れてもらい、指紋を拭き取った。自分が触ったであろう場所はもちろん、引き出しは入念に。だから、その後捜査一課がとった指紋は香西くんのものも家族のものもほとんど出ませんでした」
「憶測にすぎませんよ。生前の永太が自分で掃除をしたかもしれないじゃないですか」

その言い訳は苦しいが、あり得ないとは言い切れない内容だ。誉は慌てることなく、雪緒を見据える。穏やかな表情で、とっておきの秘密のようにささやいた。

「実は、指紋は一度すべて取れているんです」

誉の言葉に雪緒の顔色が変わった。

「え?」