「きみは香西くんの部屋からナイフを盗み出しました。事件の十日前に、きみが彼の家を訪れているのが六本木ヒルズ内の複数の防犯カメラに映っています」
「今だから言えますけど、振り込め詐欺の件で、たまに呼び出されてましたよ。俺はあいつの命令には逆らえなかったので」

あくまで主犯は香西永太だと言わんばかりに、雪緒は答える。

「では、私の仮定のお話を聞いてください。気を悪くなさらずにね。きみは香西くんの部屋の引き出しからサバイバルナイフを盗み出した。殺人事件で一番処分に苦労するのが凶器です。きみは香西くんの持ち物で彼を殺すことによって、事件が突発的に起こった揉め事として処理され、凶器の処分も免れることを狙いました。背を向けた彼の背中を刺し、うずくまったところ、背後から首を切り裂いた」

聞くに堪えないというように、雪緒が顔を歪め髪をかきむしる。それは苛立っているようにも焦っているようにも見えた。

「そんなの証拠はないでしょう? ナイフから俺の指紋が見つかりましたか?」
「指紋は見つからなかったんです。まったく」

誉は口の端をすっと引いて余裕の表情を見せる。