「……俺はまだしっくりきてないですけどね」
「ドラマや漫画じゃない。状況証拠だけじゃ、犯人は逮捕できても裁いてもらえない。確実に起訴できるよう、私たちは証拠をそろえて送致する義務がある。逮捕しても、証拠不十分で不起訴はあってはならない」

誉は箸を置き、お冷をぐっと飲み干した。

「階はここまでだ。この先はいよいよ犯抑の仕事じゃない。時間ばかりがかかる地味な作業だ。私ひとりでいい」
「俺にもやらせてください」

巧は反射的に答え、それから改めてはっきりした口調で懇願した。

「元捜査一課の御堂刑事のやり方を勉強させていただきたいです」
「おまえが想像していることの百倍つまらないぞ。そして実作業のうち、報われるのは百分の一程度だ。そして、私はこれを早急に終わらせたい。時間外はボランティアになるがいいのか?」
「かまいません」

巧にはいまだ事件の全容も、誉が裏でなにに時間をかけ、なんのために動いていたのかわからない。それを知りたい。あの御堂誉の一番に近くにいて、手法がわからなかったとはいいたくない。
自分の夢をあきらめないために。いつか、彼女と肩を並べられる刑事になるために。

「今日明日でカタをつける。わかったな」
「はい!」

巧は気持ちを込めて頷いた。