雪緒は言い淀むように唇を噛み、わずかな間の後に言った。

「永太が『ヤバイ』って言っていたとき、誰がとは言いませんでした。Crackzっていうチームのことはその前に聞いたので」
「じゃあ、永太くんが自身に危険を感じていた相手は特定できないってことですね。確か自衛にナイフを持ち歩いていたのでしょう」
「はい、そうです。ナイフは俺に見せてくれました。確か、お父さんから以前もらった海外ブランドのサバイバルナイフです」

誉が心苦しそうにうつむき、雪緒に対して言葉を紡ぐ。

「相手が大人で、暴力に長けた人間だとしたら、自衛のつもりの武器携帯が、裏目に出るということは考えられます。悲しいことですが」
「永太は……どれほど怖かっただろう……」

雪緒の大きな瞳からぽたぽたっと涙の粒が零れ落ちた。誉は雪緒の顔を覗き込み、真剣な口調で語りかける。

「幸井くんは今まで通りに暮らしてください。大事な幼馴染の死に憤りもあるでしょう。ですが、本件について調べたり動き回らない方がいい」
「御堂さん」

雪緒はぽろぽろと涙をこぼしながら言う。

「永太を殺した犯人を捕まえてください。御堂さんが担当じゃないのはわかってます。だけど、俺、このままじゃ……」
「幸井くん」
「永太の無念を晴らしてやりたいんです。たった十六で殺された永太の……」

誉がわずかに瞳を見開くのが巧の目に見えた。そこにいたのは捜査一課時代の御堂誉だったのかもしれない。心なしか周囲の空気が揺らいだようにすら見える。

「幸井くん、約束しましょう。香西永太くんを殺した犯人は私が捕まえます」
「御堂さん」
「必ず」