誉の報告に、諸岡課長がコーヒー片手にふうんと唸る。

「Crackzが昇鯉会に仁義を切ってたとなると、麻布の勢力図が変わっちゃうな。結局昇鯉会一強ってことか」
「そうとも言い切れません。昇鯉会とて、若く勢力を拡大しつつあるCrackzを抑え込むには、本家である小鹿又組から手勢を借りなければならないでしょう。事は構えたくない、しかしシマで自由にさせるわけにもいかない。それゆえ、上納金を要求することで表向き上下関係を付けているのでしょう」
「絶妙なパワーバランスのところに二股をかけていたのが被害者かもしれないということか」

陣馬が呟く。誉は陣馬に依頼する。

「陣馬、大西、車両の件とともに昇鯉会と被害者の接触があったかも調べてほしい。諸岡課長から昇鯉会のデータをもらってくれ」
「了解だ。特捜本部では昇鯉会の名前も出ている。俺がそこを調査すると言って、村中警部も嫌な顔はすまい」

非公式会議はそれで散会となった。陣馬らは出て行き、オフィスには犯罪抑止係の四人が残る。
昨夜の疲れか、井草は眠そうにあくびをしながら古嶋と並んでカップ麺を作っている。

「御堂さん、メシどうしますか?」

カップ麺だと足りないことも多い誉に念のため伺いをたてる。誉の食べたいものに合わせて、自分の昼飯も買いにいくつもりだ。

「外出の準備をしろ」

外食の気分なのかなと軽く考える巧に、誉が言った。

「昼飯は少々遅くなる。帝旺学院高校は、今日から中間考査だそうだ」

話が見えないまま、巧はジャケットを羽織った。