「す、すみません……あの、俺……」

狼狽しきりで赤くなればいいのか青くなればいいのかわからない。そんな巧を誉は下から真摯に見上げた。

「おまえと古嶋が近い位置に待機していてくれたから離脱がスムーズだった」

それは彼女にしては、優しい笑顔だった。ほんの少し口の端をあげ、目を細めただけなのだが。
巧はどくんと心臓を高鳴らせ、それから頭を下げた。

「いえ、たいしたことは」
「ああ、たいして役には立っていない。いないよりはマシという程度だったことは付け加えておこう」

あげて落とす。いつも通りの御堂誉に、巧はがっくりとうなだれた。それでもまあいい。多少は上司を守れた気がする。

「さて、腹が減った。この時間に届けてくれるのはピザくらいだろうか。古嶋、注文を頼む。私は具はなんでもいいが、Lサイズをひとりで一枚食べたい。各自、サイズと具を古嶋に申請しろ」

誉は前を歩く古嶋に呼びかける。その横の井草が振り向いて忠告する。

「御堂係長、メシより先に着替えなよ。風邪ひいちゃうよ~」
「ああ、初夏とはいえ、ここまで露出していると夜は少々冷えるな。若い女性はどうしてあんなに脚を出して風邪をひかないんだろう」
「若い子が脚出すのは自己鍛錬ですよ。免疫を上げる修行してんの。係長、若い時やらなかったでしょ」
「経験していない。スカートはスーツ以外持っていなかった」

井草の適当な発言に妙に納得する素直な誉に、巧はメイク落としシートを取り出して渡すのだった。どうせ彼女は石鹸で擦ることしかしないのだから。