「私の身長が低くて、用意されたものの中でこれしか合わなかったんだ。ところで、このドレスはどこに返却したものかな」
変なところで生真面目なことを言うので、巧はため息をつきながら答えた。
「生活安全課に届けますよ。そっちに任せましょう」
さほど時間はかからずに鳥居坂署に到着する。定時は過ぎ、当然一階の警務課は閉まっている。薄明りがつき、宿直当番の警察官はいるが、警察署全体が暗い。立ち入り検査中の刑事たちが帰ってくるまでは、静かな鳥居坂署だろう。
「御堂さん、大丈夫ですか?」
暗い廊下を犯罪抑止課のオフィスに進みながら、ぼそりと尋ねた巧に、誉は変な顔をする。
「なにがだ?」
「どこか触られたりとか、嫌な想いはしてませんか?」
「膝にはのせられたが、ホステス役で入店しているからな。幸い酒も飲まずに済んだ。許容範囲内だ」
「でも……」
誉は襟元を乱されていた。おそらく身体はべたべた触られたに違いないし、男の膝に乗る行為自体不快に感じて当然のはず。本人が気にしていないと言っても、上司にそこまでさせてしまったことに言いようのない悔しさを感じてしまう。
ついムキになって食い下がった巧の頬を誉がぺしっと叩いた。軽くてのひらを当てた程度だが。見れば、誉が巧を真っ直ぐに射抜いていた。
「気の小さい男め。“俺の女”と啖呵を切ったおまえはどこへ行った」
その言葉に、巧は先ほどの小競り合いを思いだした。脱出に気を取られていて、この瞬間まで頭の隅に追いやっていたが、自分はあの時なんと言っただろうか。
『俺の彼女』『俺の女』
上司・御堂誉をそう表現していなかったか?
変なところで生真面目なことを言うので、巧はため息をつきながら答えた。
「生活安全課に届けますよ。そっちに任せましょう」
さほど時間はかからずに鳥居坂署に到着する。定時は過ぎ、当然一階の警務課は閉まっている。薄明りがつき、宿直当番の警察官はいるが、警察署全体が暗い。立ち入り検査中の刑事たちが帰ってくるまでは、静かな鳥居坂署だろう。
「御堂さん、大丈夫ですか?」
暗い廊下を犯罪抑止課のオフィスに進みながら、ぼそりと尋ねた巧に、誉は変な顔をする。
「なにがだ?」
「どこか触られたりとか、嫌な想いはしてませんか?」
「膝にはのせられたが、ホステス役で入店しているからな。幸い酒も飲まずに済んだ。許容範囲内だ」
「でも……」
誉は襟元を乱されていた。おそらく身体はべたべた触られたに違いないし、男の膝に乗る行為自体不快に感じて当然のはず。本人が気にしていないと言っても、上司にそこまでさせてしまったことに言いようのない悔しさを感じてしまう。
ついムキになって食い下がった巧の頬を誉がぺしっと叩いた。軽くてのひらを当てた程度だが。見れば、誉が巧を真っ直ぐに射抜いていた。
「気の小さい男め。“俺の女”と啖呵を切ったおまえはどこへ行った」
その言葉に、巧は先ほどの小競り合いを思いだした。脱出に気を取られていて、この瞬間まで頭の隅に追いやっていたが、自分はあの時なんと言っただろうか。
『俺の彼女』『俺の女』
上司・御堂誉をそう表現していなかったか?